【アネクテカ・アーカイブス #001】K.M.さんの話

 

 

*** アネクテカ・アーカイブス#001 ***

名前:K. Mさん(40代 アメリカ人)

出会い:前の職場のお客様

学んだこと:人に対する恩を忘れないということ

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 きっかけは、忘れ物を届けたこと

 

K.Mさんとの出会いは、前の職場でのこと。ホテルで働いていた私は、その日ベルサービスのランナーとして働いておりました。すると何やら上司に呼ばれ、お使いをたのまれました。

 

「ホテルにパスポートと財布を忘れてしまったお客様がいる。その方はもう空港にいて、搭乗ができなくて困ってるらしい。だから早急に届けてあげてほしい」

 

すぐに私はそのお客様の財布とパスポートと必要なお金を持って、タクシーに飛び乗った。成田空港まで、1時間以上の大きなお使い。その、パスポートを忘れたお客様が、K.M.さんです。

 

仕事の携帯を持った私は、タクシーの中でもホテルのバックオフィスのスタッフと、それからK.M.さんと連絡を取りながら焦る気持ちでタクシーに乗っていた。K.M.さんは、私の仕事の携帯にメールを送る。

 

「パスポートがないのなら、最悪またホテルに戻って一泊すればいい。そうも思っているんだ。だけど、本当はどうしてもアメリカに帰りたい。明日、息子をフットボールの試合に連れて行くと約束したんだ」

 

タクシーの運転手さんにできるだけ急いでもらって、今どこにいるとこまめに連絡をして、早く着いてと願っていた私。結局私は、ギリギリ時間内にK.M.さんに忘れ物を届けることができた。

 

帰りのタクシーの中で、彼がまた私にメールをくれる。

 

「おかげさまで、予定通りの飛行機に乗ることができた!本当にありがとう。今度日本に行くときは、ぜひ君にご飯をご馳走させてくれ」

 

よかったという安堵の気持ちを感じながら、私は彼に返信をした。

 

「間に合って本当に良かったです!息子さんと楽しい時間をお過ごしくださいね。ありがとうございます。お気持ちだけ、ありがたく受け取ります」

 

 

有言実行とはこのことか

 

K.M.さんとはその後、何通かメールのやりとりをしていました。私が新しいプロジェクトをはじめるからと、働いていたホテルを辞めると知ったとき、彼は私の個人の連絡先を聞いて来て、「プロジェクトの話を今度もっと聞かせてね!」と言った。

 

1ヶ月ほど経って、K.M.さんから再び連絡が来たのはつい最近のことだった。

 

「今度また日本に行くことになったんだ!この日からこの日の間で暇な日を是非教えてほしい。ご飯をご馳走するよ」

 

K.S.さんは、私のことを覚えていて、私に対して言ったことをずっとずっと覚えていた。だからお言葉に甘えて、私は彼にご飯に連れて行ってもらうことにした。

 

K.M.さんは、肩書きだけ見れば恐れ多くてフランクに話せるような人では決してない。それなのに、彼は私のことを娘のように可愛がってくれて、でもちゃんと対等に話を聞いたり話したりしてくれて、本当に話しやすい素敵なおじさんという感じだった。私のプロジェクトの話をすると、まるで自分のことかのように楽しそうに反応をしてくれた。

 

 

潜水服は蝶の夢を見る


そんな彼が、家族のことをたくさん私に話してくれた。
 
彼はアメリカに、素敵な奥様と小学生の二人の息子がいる。大きい方の息子は、ちょっとぽっちゃりしていてアニメが大好きで、最近自分で日本語を勉強し始めたらしい。この前アメフトの試合に連れて行ったらとっても喜んでいたらしい。彼の奥様は、日本語が喋れた素敵な人で、昔はよく二人で日本に遊びに来ていたらしい。
 
 
そして、その奥さんが、数年前に『潜水服は蝶の夢を見る』の主人公と同じ病気になって、全身が動かなくなってしまった。それも、彼らがこの映画をみた数日後に。

 

 

潜水服は蝶の夢を見る』は、ある日突然倒れた主人公のお話を描いたフランス映画。3週間に及ぶ昏睡状態の後、主人公は意識や記憶を回復するが、全身麻痺が治ることがなく左目まぶたのみが動かせる「閉じ込め症候群」になってしまった。しかし彼は諦めずに瞬きのみで会話をすることを覚え、自伝を書くまでに至るーーー

 

この映画は、その自伝が元になってできた映画。

↓本の方 

潜水服は蝶の夢を見る

潜水服は蝶の夢を見る

 

 

 

K.M.さんの奥様は、この映画の主人公と同じように瞼を使って会話をするようになった。子供達のためにと本まで書いた。今も体が全く動かない状態は続いているけれど、ケアをしてくれるヘルパーさんたちのおかげで順調に毎日を過ごすことが出来ている。彼女は子供達と過ごすことが大好きで、旦那さんにオムツを替えてもらうことは大嫌いで。家族写真を撮るときはほんの数秒しか体を支えて座ることができなくて撮り直しも何もできなかったのだけど、それでも写真の中の彼女はとっても素敵な笑顔で笑ってた。
 
 
K.M.さんは笑って言っていた。
 
「今は仕事で日本によく来るけれど、ホテルに泊まるとさみしいけれど安心したりもするんだ。家にはいっつもヘルパーや子供達がいて『賑やか』だからね」
 
「こうして家から離れていると解放された気分になるけど、さみしいなとも思うよ。子供達には会いたいなと思うし、妻に対してはちゃんと面倒をみなくちゃっていう責任がある。今の仕事は楽しいけれど、もうそろそろ次の仕事をしようかと思うんだ。やっぱりもう少し家族との時間が欲しいから」
 

 

人間って愛しい

 

K.M.さんの話を聞いていて、私は人間ってなんて愛しいんだろって思った。どんな人にも、心からその人の話に耳を傾けて見ると、とても大切で泣きたくなってしまうような素敵な話があることを知る。
 
だから私はいろんな人の話を聞くのが大好きなんだなぁって、だから私は「本」を通して、K.M.さんのような、たくさんの人の中に隠れてる宝石のようなストーリーを見つけ出したいなぁって思うのだろうと思う。
 
 
彼の場合は本ではなくて、映画でした。
 
 
それでもいい。なんでもいい。
 
 
あなたのストーリーはなんですか?
ぜひ、私に教えてほしい。
 
 
私は人の話に耳を傾け続けたい。

 

 

そんなことを気づかせてくれたのが、このK.M.さんという愛しい存在。

 

 

 

 

 

終わり。