【お話】物持ちおじさんと、ものなしおじさん

 私たちのいるこの世界のことを書こうと思ったら、こんなお話がふと思いつきました。解釈は自由です。

 

 

 

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 あるところに、物持ちのおじさんとものなしのおじさんがいました。物持ちおじさんは、世界中のあらゆるところからたくさんのものを集めている物収集家のおじさんです。物持ちおじさんは、そのたくさんのものを自分のお家に飾って、世界中の風を感じることが大好きなのです。ものなしおじさんは、物持ちおじさんのお隣の家に住んでいました。このおじさんは、家を出るのが面倒で、あまり多くのものを必要とはしない人でした。家の中には必要最低限のものとおじさん自身、ポツンといるだけでした。とてもとてもシンプルです。

 物持ちおじさんはたくさんのものを持っている分、知識や思い出もたくさん持っていました。それから、友達も。世界中を旅してありとあらゆるところからえて来たものです。大切な大切な宝物です。ものなしおじさんは、知識も思い出もあまり多くはありませんでした。友達も。なぜなら、いつも同じ場所にいて同じようなことをして日々を過ごしていたからです。でもものなしおじさんは何も不足を感じていませんでした。

 ある時物持ちおじさんは、隣の部屋にものなしおじさんが住んでいることに気がつきます。それまでずっとおんなじ場所に住んでいたのに、全く気づくことはありませんでした。なぜなら、ものなしおじさんは、物持ちおじさんが出かける場所に行ったことがなかったから。ものなしおじさんはあまり家から出ないのです。物持ちおじさんは、持ち前の「知りたがり」「欲しがり」精神で、ものなしおじさんと仲良くなってみることにしました。何より、彼らはお隣同士に住むご近所さんなのです。せっかくだから仲良くしよう、そう思ったのです。

 「その前に、この部屋に住む人は一体どんな人なんだろう?」物持ちおじさんは考えます。「もしかしたらこのアパートの住人は何か知っているかもしれないぞ。よし、聞いてみよう」そうして物持ちおじさんは自分のアパートの住人一人一人を訪ねました。物持ちおじさんはとても物知りなので、たくさんの人を知っていました。ものなしおじさん以外の住人のことはみ〜んなよくわかっていたのです。だから、物持ちおじさんは、それぞれの住人に「この人はきっとこれが好きだろう」というものを、贈り物として選んでそれを持って、お家に遊びに行きました。

 物持ちおじさんは、住人のみんなにまず挨拶をして、最近の様子を聞きました。そしてお土産をあげて、それを一緒に楽しみながら楽しげに世間話を始めます。なぜなら、「いきなり不躾に聞きたいことを聞くなんて、失礼だからな。それに、せっかく遊びに来たのだからこの人のことも色々知りたいな」と思ったから。そうやって、一人の住人のお家に遊びに行っては、日が暮れるまでそのお家に居続けました。「それじゃあ、もうそろそろ・・・」という頃になって初めて、物持ちおじさんは肝心の聞きたかったことを切り出します。「そういえば、私の隣に住んでいるものなしおじさんのことなんだがね。実はまだあった事もないことに最近気がついたんだ。彼がどんな人なのか、何か知っていたりはするかい?」すると住人は答えました。「さぁ、あの人何を言っても反応が鈍くって。一体何を考えているのかしら。不思議な人だわ」

  面白いことに、物持ちおじさんは行く先行く先で同じような反応を聞きました。ものなしおじさんは、何を考えているのかがよく分からない、不思議な人だ、と。たくさん話をしても、帰ってくるのはほんの二言三言。一体何を考えているのかわからない、と。

  物持ちおじさんは困ってしまいました。なんせ、ものなしおじさんのお宅に伺おうにもどんなお土産を持っていけばいいものか、分からなかったからです。「きっと彼はものすごく天才にちがいない。だからきっと自分を隠すためにん多くを語らない人なんだ」

  さあ大変です。せっかく仲良くなろうと思ったのに、どうしたらいいのか分からなくなってしまいました。何をしたら喜ぶのか、どんなものを持っているのか、何を考えているどんな人なのか。考えれば考えるほど、謎が謎を生むばかりです。しかしうかうかしてはいられません。気づいたら「ものなしおじさんの元へ行こう!」と思い立ってからなんと一ヶ月も経ってしまって居たのですから。そんな時、ものなしおじさんがもうすぐどこかへ引っ越してしまうという噂が風とともに耳に入りました。

  「ものなしおじさんに会うのには、まだまだ準備ができて居ない!でもしょうがない!引っ越す前に会わなければ!」

  物持ちおじさんはやっとのことでお隣の部屋へと向かいます。お土産は、とりあえず見つけた誰にでも好かれそうなお菓子です。

 

  コンコンコン・・・物持ちおじさんはものなしおじさんのお家を訪ねました。「どうぞ」ものなしおじさんがぼんやりと答えます。物持ちおじさんは考えます。「どうしよう、もしかしたらまだ寝て居たのかもしれない。声が少しぼんやりして居たな。それとも僕が来るのが嫌だったのか?このまま入っていいものか」そうして立ち尽くして居たら、ガチャっと家の扉が開きました。

 「どうぞって言ったでしょ?入ってこないの?」

 我に帰った物持ちおじさんは、ものなしおじさんが導くままに家の中へと入りました。家の中は驚くほどにすっきりして居ます。ものと呼べるようなものは何もありません。「こんなに少ないもので、この人は一体どうやって生活してるんだろう?もしかしたら、どこかに上手に収納しているのかもしれない。いや、待てよ。もうすぐ引っ越すと言って居たな。だったら荷物はもう全部送ってしまっているのかもしれない。きっとそうだ。いつ頃引っ越しをするのだろう?」

  物持ちおじさんは尋ねました。「あの、お引越しはいつ頃なさるんですか」するとものなしおじさん「引越し?しないよ」

  これには物持ちおじさんはびっくりです。「え、でも風の噂で引っ越しすると言って居たからてっきり」ものなしおじさんは気にもかけて居ないようでした。「あぁ、そうなんだ。」

  そこでも物持ちおじさんは考えます。「じゃあ引っ越すっていう噂は一体誰が流したんだ?全く根も葉もない噂を流しやがって。そんなことを言ったらものなしおじさんだってきっと迷惑じゃないか。噂をされるのは気持ちのいいもんじゃない」

  物持ちおじさんは言います。「でも厄介なもんですねぇ。言ってもないことを誰かに噂されちゃったりして。そんなことをものなしおじさんは言ってないのに。一体誰がそんなこと、言ったんでしょうねぇ?」ものなしおじさんは興味なさそうに、「さぁ、わかりませんねぇ」と答えるばかり。そしてすっと立ち上がって言いました。「お茶、飲みますか」

  物持ちおじさんはすっと佇まいを直して言いました。「そんなそんな!お構いなく。私はあなたのお手を煩わせるようなことを致しません。あ、そうだこれ。つまらないものですがお土産です。どうぞ」ものなしおじさんは、少し困惑した様子で言いました。「別にお茶を飲まないのならいいんですけど。お土産ありがとうございます」

  その表情を見てとって、物持ちおじさんは考えます「もしかしたら、下手に断ってしまったことで逆に相手に対して迷惑だったかもしれない。きっと私は彼を不快にさせてしまったに違いない!アァどうしよう、どうしよう。どうやって埋め合わせをすればいいんだ!」

 

 しかしものなしおじさんが考えて居たことは、とてもシンプルなものでした。「お茶を飲むか、飲まないか。それを聞いただけなのにどうしてこの人はこんなに慌てているのだろう?わからないな」そして不思議そうに眉をひそめた。それだけのこと。

 

 物持ちおじさんは考えます。「あぁ、こんな時のためにお茶も一緒に持って来ればよかった!私はなんて行き届かない人間なんだ。でも過ぎてしまったことはしょうがない。そうだ、お手伝いをしてお茶を代わりに入れて差し上げればいい」

 そして言います。「あの、せっかくお土産もあることですし、私がお茶をいれますね。お茶っぱと・・・やかんはありますか?」ものなしおじさんは答えます「いや、ないですよ」

  物持ちおじさんはだんだんと怒りが湧いてきました。「なんだこの人は。私のことをおちょくっているのか?さっきお茶を飲むかと聞いたのに、いざ飲もうとするとお茶もやかんもないだと?どういう神経をしているんんだ。申し訳ないそぶりも見せないで・・・なんて失礼なやつなんだ!いや、でも若しかしたら何か事情があるのかもしれない。少し聞いてみることにしよう」

 

「ない・・・ということは、ないということですか。もしかして、何かご事情が?」

「ご事情?ないですよ、ご事情なんて。ないものはない、それだけですよ」

「じゃあ、この私に一体どうしろと?」

「??さぁ。どうしたいんですか?」

「それを考えるのがあなたの仕事でしょう!」

 

 とうとう物持ちおじさんの怒りが頂点に達しました。「ここまで気を使ってあれこれ言ってやってるのに、どうしてお前は何もして来れないんだ!」ものなしおじさんはぽかんと口を開けて物持ちおじさんを眺めて居ました。そして言います。

「何をしに来たんですか?」

「あなたに会いに来たんでしょう!隣に住んで居ながらいつまでも顔を見たことがないから、一度会って見たいなと思ってここまでやって来たのに、その態度は失礼じゃないですか!」

「でも、あなたは今僕に会ってますよ?それに、家は隣同士だ。何がそんなに難しいんですか?」

「ここまで来るのに私がどれだけ苦労をしたか!」

「・・・その苦労は、僕には見えません」

「見えなくたってわかるだろう!」

「見えないものは、わかりません」

「わかるために頑張るだろう、普通」

「わかって何かいいことあるんですか?」

「そりゃそうだ、わかることが多ければ多いほど幸せになれるんだ」

「そうですか。じゃあ物持ちおじさんは幸せですか」

「私は・・・幸せだ」

「じゃあ、怒る必要ないですね」

 

 それ以上、物持ちおじさんは何にも言えませんでした。

よくよく考えて見たら、自分がなんで怒っていたのかすらわからなくなってしまいました。

 急に恥ずかしくなった物持ちおじさんは、消え入るように言いました。

「大変な迷惑をかけてしまって申し訳ない。今日はもうおいとますることにしよう。どうか私のことを偏屈なおじさんだとは思わないでくれよ。本当はいい部分だってたくさんあるんだから」ものなしおじさんはにっこりと笑って言いました。「今度、物持ちおじさんのお家に行きますね」

 

 ものなしおじさんは、物持ちおじさんが気に入ったようです。ないものをあると言ったり、必要のないことをあれこれ考えたり、それからあんなにたくさんのものを持っていて一体どうするのだろう?そうふと思ったのです。いつもはものに興味がわかないものなしおじさんでしたが、なんだか興味がそそられたのでした。「もしかしたら、物持ちになるのも案外楽しいのかもしれない。何よりも、コロコロと表情を変える物持ちおじさんは面白い」

 

そうして、ものなしおじさんが物持ちおじさんのお家を訪ねるのはまた別のお話。

 

 

終わり。

 

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